業務日誌

2003/12/07 Sun 「日本ブレイク工業社宴」

残務が胃にもたれていますが振り切って渋谷へ。本日はタモリ倶楽部で文字通り一躍ブレイクした『日本ブレイク工業社歌』を歌う萬Z(量産型)のライブに出かけます。ご存じのように2ch界隈で大変な盛り上がりを見せているようですが、今日の会場はWASTED TIMEという40席のライブバー。2chの祭に40席はちょっと少なくないですかと思いながら、整理券配布開始時刻の少し前に何とか会場へ到着。

入り口の階段を地下へ降りていくと「ブレイク! ブレイク!」と確かに萬Z氏の歌声が聞こえてきてただいまリハーサル中のようです。しかし扉の前には整理券を待つ行列などはなく、それどころかお客さんの姿がまったく見えません。しまった遅かったか、とうなだれながらもおそるおそる中へ入ってみます。「整理券はもう終わりですか?」「あ、こちらです。18:30開場なので15分くらい前からいらしてください」と手渡された小さな紙片に書かれていた番号は 7

え、まだ7番ですか。かなり拍子抜けして、まぁ腹が減っているので吉野家で牛鮭定食など食して、ちょうど時間になったので再び会場へ。お客さんは10人ほど。中央のテーブルに席をとって飲み物をいただきながら掲示板をチェックすると、どうも「どうせ40人しか入れないなら無理だな」と思ってあきらめてしまった人がかなりいる模様。なんともったいない、しかしそれにしてもこの少人数は少し寂しい……と思っていたら「いやー今日はどうもありがとうございます」と作業着にヘルメット姿の男性が登場。

なんと、まだライブ開始までにはずいぶん時間があるのに、萬Z氏がわざわざごあいさつに来てくれました。「すごいたくさん人集まったらどうしようと思って、対バンの人に『すいませんものすごく混むかもしれません』とか言ってたんですけど、この体たらくで逆にまた『すいません』って平謝りですよ(笑)。みなさんやっぱり某巨大掲示板で知っていらしたんですか?」さようでございます。「持ち歌全然ないんで、みなさんとしゃべって時間つぶしてライブはパッと終えようと(笑)」いいんですかそれで。しかしこうして間近にお話できる機会もそうはないでしょう。2ちゃんねるぷらすVol.5に掲載されていたインタビューでこの曲ができるまでの経緯などはある程度知ることができたのですが、記事では萬Z氏と日ブ社との関係など意外と肝心なところが抜けていたりもしたので、その場に居合わせた2cherその他みんなでよってたかっていろいろ聞いてみることに。(以下、録音していたわけでも事務所の確認をとったわけでもないので、アーティストの公式コメントではありませんあしからず)

──タモリ倶楽部では「ミュージシャンになり損ねた営業」と紹介されていましたが……

「営業といっても、ブレイク工業の場合現場で解体工事するのが営業なので、スーツ着て『よろしくお願いします』とかやってたわけじゃないんです。もともとあの会社の課長と知り合いで、お金がなかったときにたまたま"とっ払い"で何回か働かせてもらったことがあるというつながりで。だからやっていたのはガラを運ぶとかで、歌の中で『ユンボ(パワーショベル)をかざせ』なんて言っておきながら、僕はあれ動かせないんです(笑)。建設業界って不況の影響をモロに受けるからいまの時期とても苦しくて、何とかしてほかと差別化しなきゃいけないということだったんですけど、その課長がアイデアマンで、営業でお客さんにふりかけとか配ってたんですよ。袋に『ブレイク』って貼り付けて『ブレイクふりかけ』とか(笑)。ほんとくだらないですけど、でもそれで会社の名前を覚えてもらえますよね。で、自分にも頼まれて、できることといったら何かというと、音楽しかないわけですよ。それで営業活動にもなる曲をということで作り始めたんですが、できてみたらそんなコンセプトはなくなっていました(笑)」

──ただ、音楽を作るといってもいろいろジャンルがありますよね。なんでまたあのアニメ主題歌調に。

「ユンボとか見てると、単純にかっこいいと思うじゃないですか。大きくて。男性の方ならわかると思うんですけど、巨大ロボとかとイメージが重なる感じで。僕の場合は特にミクロマンなんですけど(笑)。マジンガーZとかジャイアントロボとかああいう感じです。それと、社名が『ブレイク』。ブレイクっていう名前もめったにないですよね。ロボットみたいな重機がいっぱいあってブレイク工業なら、もうあの調子で『ブレイク! ブレイク!』しかないというか、自然に出てきました。だから、いつもふつうに曲をつくっているときに比べてもすごく作業が速かったし、楽しかった」

──あの音源は宅録?

「打ち込みの宅録です。バンドでできればいいでしょうけどねぇ。ボーカルブースっていう電話ボックスみたいな防音スペースが自宅にあるんですが、その中に入ってこんなになって(絶叫の表情でのけぞる動きをしてみせる)歌ってましたよ。当然自分ひとりで誰も聞いていないのに、目の前には大勢の子供たちとお母さんが見えてましたね。デパートの屋上で『日本ブレイクロボショー』とかやっていたつもりだったんですね(笑)」

──今回CDを出すにあたって録り直しはしたんですか。

「しました。したんですが……実はそれは使ってません。この曲はもう2年前に作った曲で、いま僕は32歳なんですけど、何というか……30歳のときの歌と32歳のときの歌を比べると、やっぱり30歳のときのほうがダイナミックさが伝わるんですね。それで結局録り直したほうはボツにして、昔の音源をスタジオでちゃんとマスタリングして使おうということに」

──それにしても「ブレイク」を社名にしてしまうって、すごいセンスですね。社長さんはひょっとして若い方?

「いや、1〜2回しかお会いしたことないのですが、もう50代とかの、いわゆる社長然とした方ですよ。社長さんが社名を決めたのかどうかはわからないんですが……。この社歌は社長さんがほとんど知らないところで勝手に動いていて、最近はほかの会社の人とかが知ってるくらいなのに、社長は知らない。それで社長さんが業界の会合に出席したとき、ほかの人から『社歌歌って』って言われて『いや、私はよく知らないので……』って困ってるそうです(笑)。いまは皆さんで練習しているみたいです。会社のことはあんまり知らなくてすいません。いわゆる土方さんだったので、仕事も現場へ直行がふつうで、会社にはほとんど行ってないんですよ」

ほんといろいろ細かいところまでお教えいただいて恐縮です。そうこうするうちに開演時刻の19:30を回ってしまっています。「あ、さすがにそろそろやらないと」そりゃそうですよ。「ではスイッチを入れます」ピカッピカッピカッ、おおー、夜間工事の現場などでよく見られる、サスペンダー型にLEDが点滅するやつですよ。思わず客席からも笑いと歓声が上がります。振り返ってみると、対バンのお客さんもそろったのか、客席はほぼ埋まっている様子で、いつの間にか店内はわりといい雰囲気に。

作業着のLEDを点滅させたまま萬Z氏がうずくまってBGMが始まります。はっきりとは聞き取れなかったのですがナレーションが聞こえてきます。これがおそらく今度発売されるCDのトラック1なのでしょう。ナレーションが終わると社歌のイントロが入り、萬Z氏立ち上がってギターをジャーン! 「ブレイク! ブレイク!」歌声にもお客の手拍子にも力が入ります。「スチールボール Da Da Da」のところなどではもちろん客席からも「Da Da Da!」の声が上がります。1番が終わるタイミングでまた拍手と歓声、いやーこの瞬間、狭いライブハウスに響く乾いた拍手と歓声が心地良い。ホールでのライブもいいものですが、オーディエンスの反応はワンワン反響してしまうので、こういう感覚が味わえるのは小ハコならではです。

「Break Out!!」と一気に歌いきりMCへ。「次の曲は、っていっても持ち歌2曲しかないんですけど(笑)、ファンレターをもらって作ろうと決めたんです。ファンレターを書いてくれたのは兵庫県の女性の方だったんですけど、お父さんは九州からツルハシ一本かついで関西のほうまでやってきた方で、お母さんも飯場で働いていた方で、それで知り合ったそうなんです。それでお父様がこの歌に『元気づけられた』とおっしゃってるそうなんです。こんな歌で人に元気を与えられるなんて……私もこれまでみじめにやってきたと思っていましたが、全国の建設関係のお父さんに胸を張ってがんばってほしいと思い、この曲を作りました」

というわけで本邦初公開された新曲は、CDにカップリング曲として収録される『希望の丘陵(おか)』。社歌とは打って変わってバラード調の曲です。詳しくは触れませんが、古いものを壊して明日を作るんだという部分も含まれるあくまで前向きな内容で、これ本気でグッとくる方も多いのではと思わせる一曲でした。そして、持ち歌が2曲しかないということで3曲目は社歌のアンコール。2曲を全力で歌いきってしまったようで、今度はかなり息切れ気味でしたが。

わずか20分程度で終わってしまうライブでしたが、ほんと貴重なものを見せていただいたという感想です。これからCDが発売されるほか、まだいくつかネタは繰り出されるようなのですが、ブレイク関連でここまで心打たれるのは今日が最初で最後でしょう。終了後にはまたも萬Z氏が客席をまわり、握手を求められます。ふつう握手してくれとせがむのはお客のほうだと思うのですが。謙虚なロッカーは最高です。

対バンも最後まで拝見。福冨英明氏のステージでコーラスおよびギターとしてBossanova Cassanovaの吉澤秀人氏が登場して、以前浜松に住んでいたころを少し思い出します。そうこうして、結局帰宅したのは23:00過ぎに。

萬Z(量産型)の今後に期待、したいのは確かでまさに心からそう思うのですが、ただブレイク工業で盛り上がるのは今年中くらいでもういいのでは、と思う気持ちもまた一方であります。プロレタリア・アーティストというキャラクターを活かして、今後はいかにテーマを普遍化しど真ん中に飛び込むか。建設業やアニメ主題歌といったキーワードは、一見ピンポイントなウケ方をするものにも見えますが、引っかけどころはむしろ普遍的なところにあるような気がするのです。

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